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錬金術は非科学的か

錬金術とは

 錬金術をアルケミー(alchemy)と言う。鉛や鉄を黄金に変える方法を追求した。物質を、熱し・溶かし・混ぜ合わせて黄金を作ろうとした。高名なニュートンも、錬金術の実験に二十年以上没頭した。
 錬金術の目的を達する事は出来なかったが、これにより様々な技術が発達した。製薬・蒸留酒製造・燐の製造等の多くの科学知識をもたらした。このことより、アルケミーは化学の語源となっている。

錬金術師は、化学反応を利用し金を作ろうとした

 錬金術と言うと、何か非科学的で無知なイメージを持つ人が多い。何故であろうか。
 物質を熱し・溶かし・混ぜ合わせる方法では、化学反応しか起こらない。化学反応とは、様々な原子同士が、結合離反を繰り返すことである。しかし、原子核自体は化学反応では変化しない。金の原子核と鉛や鉄の原子核は異なる。従って、化学反応では、金を作り出すことは出来ない。そのことを、我々は知っている。だから、化学反応で金を作り出そうとした錬金術師を、無知で非科学的な者と決め付けている。

金はどの様にして出来たのか

 しかし、錬金術の精神は、本当に非科学的であろうか。元々宇宙には、水素の原子核があった。それが恒星の核融合反応により、水素の原子核同士が結びついて、ヘリウムの原子核となった。今度はヘリウム同士が結合する。それを繰り返すことで、次第に重い原子核が形成されて行く。最後に、恒星が爆発した時の圧縮力で、金属等の重い原子核が形成される。金もこの様にして出来たのだ。

知らないことが非科学的なのか

 従って、金は他のより軽い原子核を持つ物質から作られたのである。他の物質から金を作ろうとする錬金術の思考方法は、全く科学的で合理的である。ただ、科学知識が足りなかった為に、核反応を起こす方法を知らなかっただけだ。
 知らないことが非科学的であるなら、ニュートンが万有引力を考え出そうとする努力も、アインシュタインが相対性理論を考え出そうとする努力も、非科学的であることになる。何故なら、二人とも考え付くまでは知らなかったからである。

真の科学的精神とは

 もし、錬金術師が、核反応を起こす方法を発見し、金を作ることに成功していれば、科学の分野に金字塔を打ち立て、大天才ともてはやされたであろう。失敗したので、無知で非科学的な者だと評価することはナンセンスである。
 科学的態度とは、未知のものを、自己の合理的精神のみを頼りとし、理解しようと努力する姿勢を言う。錬金術師は、本当の意味での科学者である。