• CATBIRD日記 (物理・数学・歴史・哲学・宗教の未解決問題を扱ってます)
  • 悪魔の証明が生じるケース

    ないことの証明

     エキピロティック宇宙論の多元宇宙が存在しないことを証明できるでしょうか。
     まず、証明を「その物質があるか否か」と「その観念が正しいか否か」の2つに分けて考えます。

     物質は、あるかないかを問います。一方、数学や論理学上の観念は、それが正しいか誤りかを問います。

     後者の観念は、「何か」を真と仮定し、それから演繹してその観念(命題)が正しいか否かを判断します。ですから、究極的に証明し切ることはできません。必ず何かを「真」と前提しなければならないからです。

     つまり、矛盾が起こらないことの確認しかできないのです。そして、無矛盾であってもその命題が「真」であることの証明はできないのです。これが「ゲーデルの不完全性定理」が我々に教えることです。

     ですから観念上、エキピロティック宇宙論の多元宇宙が「真」であることは、無矛盾を導いても証明することはできません。

     前者の物質は、それが我々に与える影響により、それがあるかないかを判断します。我々の現在の宇宙は現実です。これを「真」と仮定する必要はありません。あると現実と矛盾する物質は「ない」、ないと現実と矛盾する物質は「ある」です。

    私への影響の有無

     このように矛盾が導ければ、「ある」「なし」を証明できます。ですから

    @我々の宇宙に一切影響を与えないもの
    A我々の宇宙に影響を与えるもの
    に分けて考えなくてはなりません。

     @は、あるかないか判断できません。判断する材料がないからです。
     例えば「宇宙創成の仕組み」を全て解明しそこに神が介在していないことが分かっても、神が居ないことを証明できません。

     同じく、他の多元宇宙が我々の宇宙に全く影響しなければ、それがないことを証明できません。
     エキピロティック宇宙論では、我々の住む3次元のプレーンと他の宇宙の3次元のブレーンとが衝突し、ビッグバンのエネルギーが生成されたとします。  我々の住む3次元のブレーンに衝突しなかったブレーンのある他の宇宙は、我々の宇宙に全く影響しないので、あるかないか証明することはできません。

    理論上の有無と現実の有無

     A我々の宇宙に影響を与えるものは、以下に分かれます。
    B理論的にあってはならないもの
    C理論的になくてはならないもの
    D理論的にあり得ても、現実にはないもの
    E理論的にあり得て、現実にもあるもの

     Bは、その物質の影響があると仮定すると矛盾するものです。Cは、その物質の影響がないと仮定すると矛盾するものです。この様に、あるかないか仮定し矛盾が生じれば、あるかないか証明できます。

     例えば、神を想定すると現在の宇宙と矛盾するケースでは、B神が居ないことを証明できます。逆に、物質のみで宇宙創成を説明できなかった時、C神の存在を証明できます。

     同様に、多元宇宙を仮定すると矛盾すれば、B多元宇宙がないことを証明できます。多元宇宙がないと仮定して矛盾すれば、C多元宇宙があることが証明できます。

     我々の住む3次元のプレーンと衝突したブレーンのある他の宇宙は、A我々の宇宙に影響を与えます。そして、その理論的メカニズムは説明されています。
     そのメカニズムを仮定して、現在の宇宙と矛盾が生じれば、Bその多元宇宙は存在しないです。そのメカニズムがないと仮定して、現在の宇宙と矛盾が生じれば、Cその多元宇宙は存在するです。

     この様に矛盾が導ければ、背理法により多元宇宙がある又はないことを証明できます。

     BCのケース以外に、その物質の影響があってもなくても、我々の現在の宇宙と矛盾しないケースがあります。それがDとEです。
     その物質の影響を観測できれば、Eそれがあることを証明できます。逆に、ありとあらゆる場所を調べてもその影響を観測できなければ、Dその物質がないことを証明できます。

     しかしDの証明には、不可能に限りなく近い困難を伴います。これが「悪魔の証明」です。

     以上のとおり、理論的に矛盾を導けるケースは「背理法」や「対偶」を使って証明可能です。これが「在るもの対するないの証明」です。

     しかし、理論的に矛盾を導けないケース、つまり「在るかどうかわからないものの証明」では、あることを発見するか「悪魔の証明」をしない限り結論はでません。

     そして、「ゲーデルの不完全性定理」が教えるとおり、理論は無矛盾に陥る可能性があります。ですから、理論を使って現実と矛盾するか調べても無矛盾に陥り、BかCか結論がでないことがあります。

     その時、他の多元宇宙を発見しない限り、多元宇宙がないことの証明は「悪魔の証明」となり事実上不可能です。

    アリバイ証明

     一方、アリバイ証明(現場不在証明=現場にいなかったことの証明)は、現場以外の場所に居たことの証明であり、あることの証明です。