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横倒しの光時計の思考実験

通常の光時計

光時計の思考実験  光時計の思考実験は、高速で移動する列車の天井と床に鏡を取り付け、その間で光を往復させるものです。この光は、列車の乗客には、静止時と同じ時間で往復すると観測されます。
 では、列車の先頭と最後尾に鏡を取り付け、この間で光を往復させると、列車の乗客には光は静止時と同じ時間で往復すると観測されるでしょうか。

 列車の進行方向に向かう光が光速度不変となるためには、時間の経過がゆっくりとならなくてはなりません。それとは逆の方向に向かう光が光速度不変となるためには、時間の経過が速くならなければなりません。
 しかし、これは大変不自然です。ある方向に向かう光を見ると時間の経過がゆっくりとなり、異なる方向へ向かう光を見ると時間の経過が速くなると言うのですから。これは一体どの様に考えれば良いのでしょうか。

光速度不変の原理を必要とした理由

 「光速度不変の原理」は電磁気学の理論として提唱されました。電磁力は、電荷を帯びた物質間を、光の一種である電磁波が往復することで生じます。そして、その強さは距離の2乗に反比例します。つまり、電磁波の往復に要する時間の2乗に反比例するのです。
 それでは、v[m/s]で移動する列車の中では、電磁波の往復距離が異なるので、生じる電磁力の強さも変化しそうです。しかし、現実にはv[m/s]で移動する列車の中で生じる電磁気力の強さは、静止している時と同じです。この難問を解決する為に、特殊相対性理論は、v慣性系でも電磁波は物質間を静止時と同じ時間で往復する(光速度不変)と仮設したのです。

横倒しの光時計

横倒しの光時計  では、列車の最後尾に鏡Aを、先頭に鏡Bを設置します。このAB間で光を往復させます。AB間をc[m]とし、列車の速度をv[m/s]とします。列車の中の乗客には、光は何秒でAB間を往復すると測定されるでしょうか。

 A→Bを往路・B→Aを復路とします。往路の光速度は(c-v)[m/s]ですから、要する時間はc/(c-v)秒です。復路の光速度は(c+v)[m/s]ですから、要する時間はc/(c+v)秒です。往復では、c/(c-v)秒+ c/(c+v)秒=2/(1-v2/c2)秒掛かります。光の絶対速度はc[m/s]なので、光の往復距離は2/(1-v2/c2)秒×c[m/s]=@2c/(1-v2/c2)[m]です。

高速移動する時計の遅れ

質量増加  但し、v慣性系では2つの変化が起こります。「時計の遅れ」と「ローレンツ収縮」です。
 相対論では、v[m/s]で移動する物質は、静止時の√(1-v2/c2)倍しか動かないと考えます。そして、この事実は、カウフマンの実験により確認されました。
 v[m/s]で移動する粒子は、上下左右方向には√(c2-v2)[m/s]までしか動かすことが出来ません。これで粒子の速度はc[m/s]とMAXとなるからです。静止時にはc[m/s]まで動かすことが出来ました。従って、v慣性系では、静止時に比べて√(c2-v2)[m/s]÷c[m/s]=√(1-v2/c2)倍しか動かせないことが分かります。
 この仕組みにより、v[m/s]で移動する列車の中の時計は、内部部品が動き難くなり1秒間に√(1-v2/c2)秒を刻む様になります。At'=t*√(1-v2/c2)です。

高速移動する定規の収縮

光速度不変  原子がv[m/s]で移動すると、その電子は動き難くなり回転速度が落ち遠心力が弱まります。その為に、原子核の電磁力に引かれ、電子は小さな軌道を回ることになります。この仕組みにより、v[m/s]で移動する物質は、進行方向に√(1-v2/c2)倍「ローレンツ収縮」します。

 従って、列車自体が「ローレンツ収縮」するので、AB間はc*√(1-v2/c2)[m]となり、光の往復距離は@2c*√(1-v2/c2)/(1-v2/c2)[m]=2c/√(1-v2/c2)[m]となります。∴光の往復時間は2c/√(1-v2/c2)[m]÷c[m/s]=B2/√(1-v2/c2)秒となります。

 一方、v[m/s]で移動する列車の中の時計は遅れ、2/√(1-v2/c2)秒間に2秒を刻みます。《Aにt=B2/√(1-v2/c2)秒を代入するとt'=2秒となります》。即ち、乗客には、静止時と同じ2秒で光は往復すると観測されます。

 列車の中の定規も、進行方向に√(1-v2/c2)倍ローレンツ収縮します。例えば、c[m]の定規は進行方向ではc*√(1-v2/c2)[m]となります。従って、この定規を使ってAB間を測定すると、c[m]と測定されます。

 この様に、列車がv[m/s]で移動している時でも、乗客は光が2c[m]の距離を2秒で往復したと測定します。従って、光の速度=2c[m]÷2秒=c[m/s]と「光速度不変」になります。

特殊相対性原理

 この様に、片道では光速度は不変とはなりませんが、往復で考えると必ず「光速度不変」となります。その為に電磁波は、v慣性系でも常に静止時と同じ時間で物質間を往復するので、生じる電磁力の強さも不変なのです。これを、相対性理論では「全ての慣性系において物理法則は同じ形となる」と言います。