月は自由落下している

 地球から外に向かって飛び出そうとする月が、地球に向かって自由落下するので、月は地球の周りを永遠に公転するのです。
 下図に基づいて説明します。月は、赤の矢印の様に地球から飛び出そうとします。しかし、地球の重力により青の矢印の通り落下します(月は地球の中心に向って落下しますが、紙面の制約により、便宜上青の矢印の様に下向きで描きます)。従って、月は黒の点線の通り、放物線を描いて地球に落下して行きます。しかし、地球は丸いので幾ら落下しても地球には届きません。この赤の矢印と青の矢印が等しいので、月は永遠に地球の周りを回るのです。

 今、アームストロング船長が、月面で体重計に乗っていると設定します。単純に考えると、月も体重計もアームストロング船長も、同じ速度で地球に向かって自由落下しているので、地球が天頂にある時でも逆に真下にある時でも、体重計の目盛は12.5sを指します(75s÷6【月の重力】=12.5s ここでは、潮汐力は考慮しないこととします)。地球の重力は、体重計の目盛には、何の影響も及ぼさないのです。
 月を構成する全ての物質が、地球に向かって自由落下をしています。従って、月を構成する物質には、月の重力しか作用していないと観測されます。

 一方、地上の人間は、地球の中心に向かって自由落下しようとしますが、地表によりその落下を止められています。従って、アームストロング船長が、地球に戻って体重計に乗ると、そのはかりの目盛は75sを指します。75sの引力では、人間は潰れることはありません。
 「万有引力」は、物質と物質との間に引力として作用します。その強さは、物質と物質の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例します。

 月は質量が大きいので、月と地球とが引き合う力の強さは莫大となります。しかし、人間は月に比べると質量が極僅かである為、人間と地球とが引き合う強さは小さなものとなります。それで、人間は地球の重力により潰されることはないのです。

 しかし、地球には潮汐力が掛かります。潮汐力を下図で説明します。地球の直径は赤道方向で12,756qあります。従って、太陽に近い側と反対側では、太陽までの距離が違う為に、掛かる加速度の大きさが異なります。太陽に近い側は加速度A・反対側は加速度C・地球の中心は加速度Bが掛かります。A>B>Cなので、太陽に近い側にはA-Bの外側に向かう力が、反対側にはB-Cの外側に向かう力が働きます。こうして、地球には楕円体に引き伸ばされる力が働くのです。従って、この潮汐力は自由落下している物体にも働きます。

 重力の強さは、距離の2乗に反比例します。従って、(A-B)>(B-C)です。太陽が天頂にある時、人には(A-B)の天に向かう力が働きます。太陽が真下にある時、人には(B-C)の天に向かう力が働きます。地球の重力をGとすると、正午にはG-(A-B)の下に向かう力が働きます。深夜にはG-(B-C) の下に向かう力が働きます。

 G-(A-B)< G-(B-C)です。従って、正午の体重計の目盛<深夜の体重計の目盛となります。また、中間の6時と18時には潮汐力はなくなります。この様に、地球と人は太陽に向かって自由落下していても、太陽の重力による体重の変化は起こります。

 そして、その潮汐力Ftは、次の通り計算されます。
Ft=2GMmr/R3
G=万有引力定数=6.67384×10-11m3Kg-1s-2、M=物体Bの質量、m=物体Aの質量、R=物体AとBとの距離、r=物体Aの中心からの距離です。
その結果、人に掛かる太陽の重力による潮汐力は、5.0×10-7m/s2と算出されます。これは、地球の重力の5.098×10-8倍です。体重100kgの人には、5.098×10-3gとなります。この潮汐力が0gから5.098×10-3gの間で変化するのです。

 太陽の重力による深夜と正午の人間の体重の変化は、この様に潮汐力から計算しなければなりません。単純に、太陽の重力は地球の重力の1700分の一なので、深夜には真下に向かう太陽の重力が人に掛かり60g体重が増え、正午には真上に向かう太陽の重力が人に掛かり60g体重が減ると考えるべきではありません。
 人と地球は共に自由落下しているので、その地球の1700分の一の重力は働きません。太陽が真上にある時と真下にある時とでは、太陽までの距離が異なるので、その重力の強さには差が生じるのです。その為に、正午と深夜とでは、真上に向かう潮汐力の強さが異なり、体重計の目盛が変化するのです。