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シュレーディンガーの猫の思考実験の意味

思考実験

 シュレーディンガーの猫の思考実験は、次のとおりです。

 まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れます。箱の中には猫の他に、放射性物質のラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台、青酸ガスの発生装置を1台入れて置きます。
 もし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫は死にます。
 しかし、ラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せず、猫は生き残ります。
 「一定時間経過した後、猫は生きているか死んでいるか」と言う問題です。

ラジウムのアルファ崩壊

 ラジウムは、原子番号88の元素で元素記号は Raです。安定した同位体は存在せず、天然には4種類の同位体が存在します。
 ラジウムはアルファ崩壊してラドンになります。アルファ粒子は、陽子2個と中性子2個(ヘリウム4の原子核)からなります。アルファ粒子は不安定なラジウム核のアルファ崩壊にともなって放出されます。
 この様に、ラジウムはアルファ崩壊して、原子番号と中性子数が2減り質量数が4減るので、ラドンとなります。

 実験に使用するラジウムの全ての粒子の状態を正確に把握出来れば、実験時間内に一つでもアルファ崩壊を起こすか否か計算出来ます。その場合、猫は生きているか死んでいるか結論が導けます。それが、果たして可能なのでしょうか。

量子力学では物質を波として計算する

 量子力学では、粒子は波として表現し計算します。
 ドブロイは、物質を物質波の方程式@「λ= h/mV」(λ=波長・ h=プランク定数・m=物質の質量・V=物質の速度)と表現しました。
 これについての詳細は、 ドブロイの物質波 を参照下さい。

不確定性原理

 この様に、全ての物質は波長と速度で表され計算されます。これを波動関数と言います。しかし、この「ドブロイの物質波」の方程式は、次の様な困難(=不確定性原理)を抱えています。
「不確定性原理」は、A「h/2π(パイ)m<Δx×ΔV」と表現されます。
h=プランク定数=6.629069×10^−34J*s(ジュール×秒)・π(パイ)=円周率3.141592・m=物質の質量(単位:s)・x=波長(単位:m)・V=速度(単位:m/秒)です。
 言葉にすると、「物質の位置を正確に確定しようとすると物質の速度が不確定になり、逆に物質の速度を正確に確定しようとすると物質の位置が不確定になる」です。

 これについての詳細は、 不確定性原理 を参照下さい。

確率論では、猫は60%死んでおり40%生きていることとなり矛盾する

 この「不確定性原理」により、ラジウムの波長と速度を正確には確定出来ません。その為、量子物理学では、ラジウムのアルファ崩壊の過程を正確に計算することが出来ず、アルファ崩壊が実験時間内に一つでも起こったかについて、イエス・ノーの結論は出ません。
 ただ、確率的に、ラジウムのアルファ崩壊は60%起こり40%起らなかったとしか言えません。つまり、ある現象が起こったか起こらなかったかと言う相容れない2つが重なり合った状態として結論を表現するしかありません。

 冒頭に戻ります。量子力学では、アルファ崩壊が起こった確率が60%・起こらなかった確率が40%なので、実験後猫は60%死んでおり40%生きていることになります。しかし、猫が死んでいるか生きているかはお互いに相容れません。生きているか死んでいるかしかないのです。

 この様に、実験に使用するラジウムの全ての粒子の波長と速度を正確に記述することが出来れば、その中で所定時間内にアルファ崩壊する粒子があるか否か計算し結論が出ます。実験後、猫は生きているか死んでいるかはっきりします。
 しかし、量子力学の手法では「不確定性原理」により、ラジウム全ての粒子の波長と速度を正確に記述することが出来ず、所定時間内に実験に使用するラジウムの中の粒子がアルファ崩壊を起こすか否かは確率でしか表現出来ません。従って、猫は60%死んでおり40%生きていると言う矛盾した結論となるのです。

 シュレーディンガーは、量子力学の確率的表現を巨視的に見ると矛盾に陥ることを「シュレーディンガーの猫」の思考実験で表現しました。