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熱力学の謎「圧力×体積=気体量×気体定数×絶対温度」の仕組み

T.理想気体の状態方程式

 理想気体の状態方程式は
pV=nRT (p=圧力[pb]・V=体積[m3]、n=気体の量[mol]、R=気体定数[8.31J/molK]、T=絶対温度[K])
です。これを言葉で表現します。
@絶対温度を一定に保ちながら(暫く置いておき外部と同じ温度にすること)、圧力pを2倍にすると体積Vは1/2倍となります。逆に、体積Vを2倍にすると圧力pは1/2倍となります。
A但し、外部と断熱して体積Vを1/2倍にすると絶対温度が上昇し、断熱して体積Vを2倍にすると絶対温度が下降します。これを「断熱変化」と言います。
B気体粒子の1個の質量が2倍や1/2倍となっても、圧力pも体積Vも絶対温度Tも変化しません。
C気体粒子の個数(n[mol])が2倍になるとpVの値が2倍となり、1/2倍となるとpVの値は1/2倍となります。
D絶対温度Tが2倍になるとpVの値が2倍となり、1/2倍となるとpVの値は1/2倍となります。

U.ボイルの法則

粒子の加速

 以下、@からDとなる仕組みを考察します。

 先ず、@からです。気体を入れる容器を、1辺b[m]の正六面体とします。気体の量はn[mol]と絶対温度Tは一定とします。この時の気体の体積はb3[m3]です。

 気体分子1個が一定温度で障害物が無い中を進む時、それは周りの温度より運動エネルギーを受け取り、どんどん加速します。

密封された気体分子  それに比べて、正六面体の中の密封された気体分子は、他とぶつかりながら上下左右前後に激しく移動します。気体分子同士が非弾性衝突するので、気体分子が持っていた力学的エネルギーの一部は、熱エネルギーに変わります。そして、失われる力学的エネルギーは衝突時の速度の2乗に比例して多くなります。
 ですから、密封された気体分子は、絶対温度Tに応じた一定速度を保ちます。

 ところで
E力F=ma (m=物質の質量[s]・a=加速度[m/s2])
F物質の移動距離r=(1/2)at2 (t=時間[s])
G物質の速度v=at
 故に
HエネルギーE=(1/2)mv2
です。

気体の体積と粒子の速度と衝突までの移動距離  ここで、正六面体の容器の体積を1/2倍にします。すると、気体分子が他と衝突までに移動する距離も1/2倍となります。気体分子の密度が2倍となるので、衝突する確率も2倍となるからです。
 この時、気体分子の移動速度は何倍となるでしょうか。結論から言えば1/(21/3)倍になります。

 気体分子同士が衝突せず持っている力学的エネルギーを失わなければ、Fより距離が1/2倍となると、時間は1/√(2)倍に、Gより速度も1/√(2)倍となります。
 これで、移動距離が1/2倍となり移動速度が1/(21/3)倍となったので
衝突までに要する時間t=距離r÷速度v=1/2÷1/(21/3)倍=(21/3)/2倍
です。故に
気体分子同士の衝突頻度p'[回/s]=1÷(21/3)/2=2/(21/3)倍
です。

 元の容器では
H気体分子同士が衝突するエネルギーU=m×v2×衝突頻度p=m×12×1=m[J]
でした。そして、容器の体積が1/2倍になると
I気体分子同士が衝突するエネルギーU'=m×v'2×衝突頻度p'=m×1/(22/3)×2/(21/3)=m×2/(23/3)=m[J]
です。この様に、温度を一定にして気体の体積を変化させても、気体の有する内部エネルギーUは変化しません。ですから、大きい容器であろうと小さな容器であろうと、容器の内面全体で気体から受ける圧力は同じです。

 では、気体分子同士の衝突で失われる力学的エネルギーは何倍になるでしょうか。
 失われる力学的エネルギーは、気体分子の衝突時の速度の2乗に比例します。そして、衝突頻度に比例します。したがって、元の容器では
失われる力学的エネルギーE=12×1=1倍
 そして、1/2倍の体積となった容器では
失われる力学的エネルギーE=1/(22/3)×2/(21/3)=2/(23/3)=1倍 です。この様に、体積を変化させても衝突により失われる力学的エネルギーは同じです。

注射器  では、この時圧力pは何倍となるでしょうか。
 実験では、ピストン(注射器)を使います。注射器では、押し子を押して気体の体積を1/2倍に圧縮すると、表面積も約1/2倍となります。
 体積が1/2倍となっても、注射器のシリンダー内壁全体が受ける圧力pは変わらないのですが、シリンダーの内壁の表面積は約1/2倍となるので、面積1[m2]当たりが受ける圧力pは約2倍となります。したがって、ガスケットの部分に掛る圧力(=押し子に掛る力)も約2倍になります。

 この仕組みにより、注射器内の気体の体積Vが1/2倍となると、押し子が受ける力pは約2倍となるので
圧力p×体積V=一定値
となります。これを「ボイルの法則」と言います。

 逆に、押し子を引いて気体の体積を2倍に膨張すると、
衝突までの気体分子の移動距離rは2倍となり(密度が1/2倍となるので、衝突する確率が1/2となるため)、移動速度vが、結論から言えば(21/3)倍となります。したがって
衝突までに要する時間t=移動距離r÷速度v=2÷(21/3)倍=2/(21/3)倍
となります。故に
気体分子同士の衝突頻度p'[回/s]=1÷2/(21/3)=(21/3)/2倍
です。こうして
I気体分子同士が衝突するエネルギーU'=m×v'2×衝突頻度p'=m×(22/3)×(21/3)/2=m×(23/3)/2=m[J] で、体積を2倍に膨張しても、気体の有する内部エネルギーUは変化しません。つまり、シリンダー内壁全体が受ける圧力pは変わりません。

 押し子を引いてシリンダー内の気体の体積を2倍にすると、シリンダー内壁の表面積は約2倍になります。ですから、シリンダー内壁1[m2]当たりが受ける圧力pは約1/2倍となります。したがって、押し子が受ける力は約1/2倍となります。
 このケースでも「ボイルの法則」が成立しています。

V.断熱変化

断熱圧縮と衝突速度と衝突距離

 次は、Aを説明します。
 上記@の説明は、押し子を動かしシリンダー内の体積を変えた後暫く放置し、周囲の温度とシリンダー内の気体分子がエネルギーをやり取りした後、気体分子の速度が一定に落ち着いた状態を説明しました。
 今度は、周囲とのエネルギーのやり取りを封じ断熱してシリンダー内の体積を変えた時の、圧力p・体積V・絶対温度Tの関係を考察します。

 先ず、押し子を出来るだけ速く押し、シリンダー内の気体の体積Vを急激に1/2倍に圧縮します。
 気体分子の密度が2倍となったので、衝突までに移動する距離rは1/2倍です。気体の移動速度vは直ぐには変わりません。少しの間はそのままです。ですから
気体分子の衝突に要する時間t=r÷v=1/2÷1=1/2倍
です。したがって
気体分子の衝突頻度[回/s]=1÷1/2=2倍
となります。故に
I気体分子同士が衝突するエネルギーU'=m×v'2×衝突頻度p'=m×12×2=2m[J]
で、気体の有する内部エネルギーUは2倍となります。

 この様に、断熱して気体の体積を1/2倍にすると、シリンダー内壁全体が受ける圧力pは2倍となります。一方、シリンダー内壁の表面積は約1/2倍となるので、内壁1[m2]当たりが受ける圧力は4倍となります。したがって、ガスケットの部分に掛る圧力=押し子に掛る力も約4倍となります。

 この様に、断熱して体積を1/2倍にすると、押し子に掛る力は4倍になります。「pV=nRT」なので
nRT=1/2×4=2倍
となります。nとRは変わらないので、絶対温度Tが2倍となります。このとおり、気体を断熱圧縮すると温度が上昇します。

 逆に、断熱して押し子を引きシリンダー内の体積を2倍に膨張すると、気体分子の密度が1/2倍となるので、衝突までに移動する距離rは2倍です。気体の移動速度vは直ぐには変わりません。少しの間はそのままです。ですから
気体分子の衝突に要する時間t=r÷v=2÷1=2倍
です。したがって
気体分子の衝突頻度[回/s]=1÷2=1/2倍
となります。故に
I気体分子同士が衝突するエネルギーU'=m×v'2×衝突頻度p'=m×12×1/2=1/2m
で、気体の有する内部エネルギーUは1/2倍となります。

 この様に、断熱して気体の体積を2倍に膨張すると、シリンダー内壁全体が受ける圧力pは1/2倍となります。一方、シリンダー内壁の表面積は約2倍となるので、内壁1[m2]当たりが受ける圧力は1/4倍となります。したがって、押し子に掛る力も約1/4倍となります。

 この時、「pV=nRT」なので
nRT=2×1/4=1/2倍
となります。nとRは変わらないので、絶対温度Tは1/2倍となります。このとおり、気体を断熱膨張すると温度が低下します。

W.粒子の質量の影響

粒子の質量と衝突速度と衝突距離

 次は、B気体分子の質量が1/2倍となった場合を考察します。

 結論から言うと、気体分子の速度vは(21/3)倍になります。
 衝突までに移動する距離rはそのままの1倍です。ですから
気体分子の衝突に要する時間t=r÷v=1÷(21/3)=1/(21/3)倍
です。したがって
気体分子の衝突頻度[回/s]=1÷1/(21/3)= (21/3)倍
となります。

 故に
I気体分子同士が衝突するエネルギーU'=m×v'2×衝突頻度p'=1/2×(22/3)×(21/3)= (23/3)/2=1倍 です。このとおり、気体の有する内部エネルギーUは、気体分子の質量を1/2倍する前と同じです。

 注射器のシリンダー内壁の面積も、その内壁全体を押す圧力pも変わらないので、気体分子の質量mが1/2倍になっても、押し子を押す力pは変わりません。したがって、気体分子1個の質量mが変わっても、圧力p・体積V・絶対温度Tに変化はありません。

X.気体分子の量の影響

 次は、Cです。この気体粒子の数nが2倍となった状態は、nを一定にして気体の体積を1/2倍としたのと同じ状態です。ですから、@の説明のとおりです。

Y.絶対温度の影響

絶対温度と衝突速度と衝突距離

 次は、Dです。絶対温度を2倍にして、気体分子に与える運動エネルギーを2倍にすると、結論から言えばその移動速度vは(21/3)倍となります。
 衝突までに移動する距離rはそのままです。ですから
気体分子の衝突に要する時間t=r÷v=1÷(21/3)=1/(21/3)倍
です。したがって
気体分子の衝突頻度[回/s]=1÷1/(21/3)= (21/3)倍
となります。故に
I気体分子同士が衝突するエネルギーU'=m×v'2×衝突頻度p'=1×(22/3)×(21/3)= (23/3)=2倍
となります。このとおり、気体の有する内部エネルギーUは2倍となります。

 シリンダー内壁全体を押す圧力pが2倍になりました。気体の体積を変えなければ、シリンダーの内壁1[m2]当たりに掛る圧力は2倍になり、押し子を押す力も2倍となります。
 押し子を押す力pを同じにするは、体積を2倍にしシリンダー内壁の表面積を約2倍にしなければなりません。
 つまり
2nRT=2p×V=p×2V=2pV
です。
 この仕組みにより「圧力×体積=気体の量×気体定数×絶対温度」つまり「pV=nRT」となります。以上の説明を「理想気体状態方程式のkothimaro解法」と呼びます(2016/09/23AM5:53)。