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高速移動する列車の前後から光を発する実験

片道で光速度を測定出来るか

 思考実験で、等速直線運動する列車の前後端から発射した光波は、列車の真ん中で見ると真ん中でぶつかるでしょうか。

同時に届くか  列車の長さを2c[m]・速度をv[m/s]とします。列車の中央に観測者Aが居ます。列車の最前部の光源αと最後尾の光源βから同時に光を発します。その時、光αとβは、観測者Aに同時に届くでしょうか。

 ところで、光源αと光源βから、同時に光を発することが出来るでしょうか。この宇宙に瞬時に伝わるものがあれば、下図の方法1の黒い矢印の様に、Aから瞬時に伝わるものを光源αとβに発射し、αとβはそれを受取った瞬間に光を発することが出来ます。
 しかし、残念ながら、この世に瞬時に伝わるものはありません。光速が速度の上限です。

 また、方法2の様に、光源αとβから今光を発したと言う信号をAに送ります。このケースでも、瞬時に伝わるものがあれば、Aには光源αとβは同時に光を発したか否か分かります。しかし、瞬時に伝わるものはありません。

 では、方法3の様に、時限付光源を使います。列車の中央のAの居る場所で、2つの光源に取りつけた時計の時刻を合わせ、1分後に光を発する様セットします。そして、時限付光源αとβを、それぞれ最前部と最後尾に移動します。そして、時計が1分を刻むとαとβから光が発射されます。これで、光源αとβは同時に光を発射したと言えるでしょうか。

 高速で移動する時計は遅れます。従って、時計を少しでも動かすと、時計αと時計βは時の刻み方が変わります。従って、この方法でも、αとβから同時に光を発することは出来ません。

 この様に離れた場所で起こった2つの事象が同時であったのか否かを知る術がないのです。これを「同時性の相対性」と言います。

往復で光速度を測定すると光速度不変となる

同時に届くか  この実験を少し変えて見ましょう。列車の最前部に鏡αを最後部に鏡βを取り付けます。そして中央のAが同時に鏡αとβに光を発します。
 鏡αとβに同時に光が届いたか否か、上記と同じ理由により知る術はありません。瞬時に伝わるものでαとβに光の発射を知らせることは出来ず、瞬時に伝わるものでαとβから光が届いたとの知らせを受け取ることも出来ず、αとβの時計の時刻を合わせることも出来ないからです。

 光が鏡αとβに反射してAに戻ります。2本の光が同時に戻ったか否か知ることは出来ます。ですから、2本の光の往復での平均速度を求めることは出来ます。そして、光の相対速度は往復で測定すると必ずc[m/s]と「光速度不変」となります。

 では、実際に計算して見ましょう。
 先ず、鏡αに向かった光の往路の所要時間を求めます。列車の長さに変化がないとします。
 往路の光の相対速度=(c-v)です。従って、往路の所要時間=c/(c-v)秒です。復路の光の相対速度=(c+v)です。従って、往路の所要時間=c/(c+v)秒です。故に、往復時間= c/(c-v)秒+ c/(c+v)秒=2/(1-v2/c2)秒です。

 しかし、v[m/s]で移動する列車は「ローレンツ収縮」し長さは2c√(1-v2/c2)[m]となります。従って、Aα=Aβ=c√(1-v2/c2)[m]です。ですから、往復所要時間=2/√(1-v2/c2)秒です。

 鏡βに向かった光の往路の相対速度は(c+v)です。復路の相対速度は(c-v)です。ですから、この光の往復所要時間も2/√(1-v2/c2)秒です。ですから、2本の光は同時にAに戻ります。

 ちなみに、列車の床と天井の距離をc[m]とします。床と天井に鏡を取り付け、この間に光を上下させます。この光の往路も復路も光の相対速度はピタゴラスの定理より√(c2-v2)[m/s]です。従って、往復の所要時間は2c[m]/√(c2-v2)[m/s]=2/√(1-v2/c2)秒です。

 しかし、列車の中の時計は遅れ1/√(1-v2/c2)秒に1秒を刻みます。従って、Aには2本の光は列車が静止していた時と同じ2秒で戻って来たと観測されます。上下に往復する光も、静止時と同じ2秒で往復すると観測されます。

特殊相対性原理

 一方、電磁力は電荷を帯びた粒子間を光子が往復することで生じます。そして、その強さは粒子間の距離の2乗に反比例します。上記の様に、v慣性系では、光子の往復距離は横(進行方向)1/√(1-v2/c2)倍・縦(上下左右方向)1/√(1-v2/c2)倍に伸びます。これでは、v慣性系では生じる電磁力の強さは弱まると思えます。しかし、現実には変わりません。

 その理由は、列車の思考実験のとおりv慣性系では、光子は静止時と同じ時間で粒子間を往復するので、生じる電磁力の強さが不変と観測されるのです。これを「全ての慣性系で物理法則は同じ形となる(=特殊相対性原理)」と言います。

同時性の相対性

 しかし、上記の計算は理論上のものです。鏡αとβに何時光が届いたのか、誰にも分りません。往復すると2本の光は静止時と同じ時間で同時に戻って来ます。ですから、2本の光の往路も復路もc[m/s]で不変で、αとβに同時に光が届いたと仮設する方が計算が簡便になります。
 電磁力の強さは光子の往復時間の2乗に反比例し、その往復時間は不変です。ですから、一々往路と復路の光速度より往路と復路の所要時間を求め、生じる電磁力の強さを求めることは無駄です。往復時間は不変なのですから、往路と復路を光速度不変とし、光は鏡αとβに同時に到達したと考えて物理計算をしても良いのです。これが「同時性の相対性」の意味です。
 この考え方に沿って、往路も復路も「光速度不変」と仮設したのが「ローレンツ変換」です。

 「列車の前後端から発射した光波は列車の真ん中で見ると真ん中でぶつかったと考えて良い」が私の回答です。