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マックスウェルの悪魔

エントロピーの増大

 高温の空気とは、空気分子の移動速度が速い状態です。逆に、低温の空気とは、空気分子の移動速度が遅い状態です。
 高温の空気と低温の空気を接すると、温度は均一の状態になります。これを、エントロピー(乱雑さ)が小さい状態から大きい状態になった(エントロピーが増大した)と表現します。
 これは、温度毎に空気がキチンと区別され整頓されていた乱雑さの少ない状態から、混ざり合いごちゃごちゃの乱雑な状態になったと言う意味です。

 この様に、温度の異なるもの同士が接し合うと、温度が均一になり必ずエントロピーは増大します。同一温度の空気は、温度の高いものと低いものとに分かれる方向には向かいません。この様に、熱力学第二法則では、エントロピーの減少が禁じられています。

情報をエネルギーに換える方法

 仮に、@「同じ温度の空気を、温度の高いものと低いものとに分けること」が出来たなら、その温度差を利用して発電することが出来ます。
 高温の空気Bで水を水蒸気にしてタービンを回して発電し、今度は低温の空気Aで使用済み水蒸気を冷却し水にして再度利用します。そこで得られた電気を使い@を行います。もし、@に要するエネルギー量が発電で得られるエネルギー量よりも少なければ、この方法で永久機関を作ることが出来ます。

 では、どの様にすれば、@が可能でしょうか。
 ここに、空気の入った密閉された箱があります。中に間仕切りがあり、2つの部屋AとBに分かれています。間仕切りには、空気の粒子一粒が通れる穴が開いています。その穴には、上下する扉が付いていて、自由に閉じたり開けたりすることが出来ます。
 もし、一つ一つの空気の粒子の温度(動く速度)を知ることが出来たなら、速く動く空気の粒子がAからBに入ろうとした時穴を開けその粒子を通し、遅く動く空気の粒子がAからBに入ろうとした時穴を閉じます。
 逆に、遅く動く空気の粒子がBからAに入ろうとした時穴を開けその粒子を通し、速く動く空気の粒子がBからAに入ろうとした時穴を閉じます。
 これを続けると、A部屋には低温の空気が溜り、B部屋には高温の空気を溜めることが出来ます。こうすると、AとBの温度差を利用して、発電することが出来ます。
 この様にすると、空気一粒一粒の移動速度と言う「情報をエネルギーに変える」ことが可能です。

マックスウェルの悪魔

 スコットランドの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルは、この空気の移動速度を知る者を「マックスウェルの悪魔」と名付けました。
 この思考実験により、熱力学第二法則で禁じられたエントロピーの減少の可能性が提唱され、熱力学の根幹に難問を突き付けました。

 この難問に対して、「一つ一つの空気の速度を光を使って測定するには、発電する以上のエネルギー量を必要とする」とか、「移動させた空気の粒子に関する情報を消去しなければ、情報は増大し続け何時かは破たんする。その情報を消去するのに要するエネルギーは、発電により得られるエネルギー量を上回るので永久機関は出来ない」と言った解法が提唱されています。

 しかし、現在もなお、「マックスウェルの悪魔」に関する文献は増え続け、研究されています。