軌道エレベーターの基地である静止衛星からケーブルを地上に垂らし、そのケーブルを使いエレベーターで上下出来るでしょうか。
高所にある基地の静止衛星は、非常に高速で自転しています。そこからエレベーターで降りると、エレベーターの自転速度は地球までの距離に反比例してどんどん速くなります。
それに比べて、軌道ケーブル自体は地球までの距離に比例した速度で自転しています。
地表に付く頃には、軌道はそんなに自転していないのに、エレベーターの方は恐ろしい程の高速で、東に向かって移動することになります。
逆に、地上からエレベーターで上昇すると、エレベーターはゆっくりとしか自転していないのに、軌道や基地は恐ろしい速さで自転しています。
この様に、エレベーターと軌道の自転速度の不一致を解消しなくてはなりません。
また、静止衛星からケーブルを地上に降ろし、軌道を作る際にも困難が伴います。ケーブルを下すほど、上記のとおりケーブルが速い速度で自転し東の方向へ行ってしまうので、真っすぐ下には降ろせません。
以上の困難を解決する具体的手段が確立されていないので、軌道エレベーターはまだ「構想の段階」です。
以上の内容を、数式を使って説明します。
ケプラーの第二法則は「太陽と惑星が一定時間に移動した軌道を結ぶ扇形の面積Sは一定である」と表現します。
これは「角運動量保存の法則」から導くことが出来ます。
角運動量a=mrv (m=回る物質の質量・r=回転する円の半径・v=回転速度)
です。この運動量が一定になります。
つまり、惑星の公転半径を半分にすると回転速度は2倍になります。これで
角運動量=m×r/2×2v=mrv=一定
となります。
この仕組みにより、軌道エレベーターで下降すると、エレベーターの自転速度は地表の速度より速くなり、上昇するとエレベーターの自転速度は基地衛星よりも遅くなるのです。
同じ理で、静止衛星からケーブルを降ろしても、ケーブルはどんどん公転速度を増すのです。ですから、軌道を作ることは容易ではありません。
では、実際の数値を使って説明します。
静止衛星の公転速度は秒速約3Kmです。そして静止衛星は、地球の中心から地表までの距離の約6倍の高度を回っています。
ですから、静止衛星からものを、下からワイヤーで引っ張って、地表に降ろすと、その公転速度は6倍の秒速18qとなります。
それに対して、地球の公転速度は赤道上でも秒速約500mです。この数値から、軌道エレベーター実現の困難さが実感できます。