重りに紐を付けて回します。そして紐の長さを半分にすると、重りの回転速度は2倍になります。つまり、紐の長さと重りの回転速度は反比例します。
これで、一定時間内に重りが移動した弧と中心からなる扇形の面積は一定になります。これを「角運動量保存の法則」と言います。
数式では
角運動量a=mrv (m=物体の質量・r=回転半径・v=回転速度)
です。
扇形の面積S=rL/2 (r=半径・L=弧の長さ)
です。rが1/2倍になると速度vが2倍になるので、一定時間内に移動した弧の長さLも2倍となります。これで
扇形の面積S=(r/2)×2L÷2= rL/2=一定
と扇形の面積は一定になります。
では何故、紐の長さと重りの回転速度は反比例するのでしょうか。それを「テコの原理」で考えて見ましょう。
棒の両端に、重りAと重りBを付けて回します。すると、全体の重心を中心にして2つの重りは公転します。
例えば、重りA:重りB=2:1の質量であれば、重心の位置は棒を1:2に内分する点の所です。この重心を中心にしてAとBは公転します。
これは、テコそのものです。重心が支点です。AがBを回転させます。AはFの力でBを動かします。これが重心から点線のBまでの距離が半分の1になると、Aは2Fの力でBを動かします。点線Bは受ける力が2倍となるので、回転速度も2倍となります。
この様に、公転半径が1/2倍になると回転速度は2倍になります。従って
角運動量a=m×(r/2)×2v=mrv=一定
です。
重りは
v=a/mr
が成立します。ここでa/m=1とすると
v=1/r
の関係が成立します。
向心力は回転速度を上げます。黒矢印の速度vと赤矢印の向心力が合成され、緑矢印の回転速度rωとなります。黒矢印<緑矢印です。ですから、向心力が強まれば、重りは回転方向へより強く引かれ回転速度が増します。
逆に、遠心力は回転速度を下げます。緑矢印の回転速度と青矢印の遠心力が合成されると、黒矢印の速度となります。黒矢印<緑矢印です。ですから、遠心力が強まれば回転とは反対方向へ重りはより強く引かれるので回転速度は落ちます。
回転半径が半分のr/2になると、向心力は緑矢印アから紫矢印イと大きくなります。
したがって、重りAは速度を増し、回転速度は赤矢印となります。
回転速度が赤矢印のとおり増すと、灰矢印ウのとおりより強く中心に向って引かれるので、向心力が増し更に速度が上がります。これをどんどん繰り返し、回転速度は上がって行きます。
この関係をv=1/rを使って
A向心力F'= mv2/r =mv×(1/r)/r =mv/r2
と表します。向心力は、回転半径の2乗に反比例し回転速度に比例します。
では、回転半径rが半分になると、どこまで回転速度vは上がるのでしょうか。
向心力は回転速度を上げ、遠心力は回転速度を落とす方向へ作用します。回転半径が半分になると、回転速度が増します。回転速度が増すと、遠心力も向心力も強まります。しかし、その強まり方が異なり、@遠心力=A向心力となった時点で、回転を落とす力と回転を速める力が等しくなり、回転速度はそこで安定します。
@遠心力F=mv2/r (m=重りの質量・v=重りの回転速度・r=回転半径)
A向心力F'=mv/r2
でした。
今重りが、紐の長さr・速度vで回転しています。この時、重りに掛る遠心力と向心力とは釣り合っています。ですから
@遠心力F=mv2/r=A向心力F'=mv/r2
です。
回転半径が変化すると、遠心力と向心力の釣り合うところまで公転速度が上がります。例えば、回転半径rが半分になると、回転速度vは2倍になります。ですから
@遠心力F={m(2v)2}/(r/2)=8mv2/r=向心力F'=m2v/(r/2)2=8mv/r2
と両者は等しくなります。
A「向心力F'=mv/r2」を「紐による向心力のkothimaro式」と呼びます(2016/11/29pm19:57)。
以上は、長さの変わらない紐が向心力を生んでいる場合を説明しました。
今度は、原子の様にプラスの電荷を帯びた原子核の周りをマイナスの電荷を帯びた電子が公転する場合を考えましょう。このケースでは、紐ではなくクーロン力が向心力を生んでいます。
@遠心力F=mv2/r
です。一方
Cクーロン力F'=Kq1q2/r2 (K=クーロン定数・q1q2=電荷量・r=回転半径)
です。
電子は、遠心力F=クーロン力F'となる軌道を公転します。故にmv2/r= Kq1q2/r2です。
そして、公転半径が半分になると
@遠心力F=mv2/(r/2)=2 mv2/r
ですが
Cクーロン力F'=Kq1q2/(r/2)2=4 Kq1q2/r2
です。つまり、遠心力は2倍になりますが、クーロン力は4倍になります。ですから両者が釣り合うには、回転速度が√(2)倍にならなくてはなりません。これで
@遠心力F=m{√(2)v}2/(r/2)=4mv2/r=Cクーロン力F'=4 Kq1q2/r2
となります。
ですから、電子が内側の軌道に入る時、回転速度を増す必要があります。そこで、電子は光を吸収し、そのエネルギーで加速します。
逆に、外側の軌道に移る時、回転速度を落とす必要があります。そこで、電子は光を放出し、運動エネルギーを低下して減速します。
この様に、電子の軌道において角運動量保存の法則「a=mrv」は成立しません。公転半径rが半分になると公転速度vは√(2)となるのですから。
これに対し紐の場合、回転速度が上がるとそれだけ中心に強く引き付けられるので、重りの公転速度が上がります。つまり、公転速度が上がると更に向心力が強くなるので、重りの速度は2倍に達するのです。
一方、電子軌道のケースでは、回転速度が変化してもクーロン力(向心力)は変化しません。紐の様に固定されているのではなく、距離の2乗に反比例する電磁気力により引かれているだけです。故に電子の速度は、√(2)倍に留まるのです。
次は、惑星の公転について考察します。
惑星の場合、角運動量保存の法則「a=mrv」が成立します。ケプラーの第二法則で、公転半径が半分になると惑星の公転速度は2倍になります。
つまり
角運動量a=m×(r/2)×2v=mrv=一定値
となります。
何故惑星の場合、電子とは異なり「角運動量保存の法則」が成立するのでしょうか。
@遠心力F=m{√(2)v}2/(r/2)=4mv2/r
でした。
一方
D万有引力F''=GMm/r2 (G=万有引力定数・Mm=物体の質量・r=物体間の距離)
です。
但し、惑星は太陽の重力による位置エネルギーを有します。
E位置エネルギーU=−GMm/r
です。この様に、位置エネルギーは太陽からの距離に反比例します。つまり、遠心力により惑星が飛び出そうとしますが、惑星の動き難さは太陽からの距離に反比例します。ですから
F遠心力F=(mv2/r)×r= mv2
となります。故に
F遠心力F= mv2=万有引力F''=GMm/r2
となる軌道を惑星は公転します。
惑星の軌道半径rが半分になると
D万有引力F''=GMm/(r/2)2=4 GMm/r2
したがって、遠心力も4倍になるので
F遠心力F= 4mv2=m(2v)2
です。
この様に惑星の軌道半径が1/2倍となると公転速度は2倍となるので
角運動量a=m×(r/2)×2v=mrv=一定
となります。この様に、惑星の公転運動では角運動量保存の法則が成立します。
F「遠心力F=mv2」を「惑星公転運動における遠心力のkothimaro式」と呼びます(2016/12/03am10:40)。
「原子核は静電気力を有するので、位置エネルギーUがある。惑星にも、太陽の重力による位置エネルギーUがある。両者同じなのに、前者は「角運動量保存の法則」が成立せず、後者のみ成立するとの説明は矛盾している」とのご指摘を頂きました。
このご質問にお答えします。確かに原子核は静電気力を有するので、位置エネルギーUがあります。そして
G位置エネルギーU=−kqQ/r (k=クーロンの法則の比例定数・q=電子の電荷・Q=原子核の電荷・r=距離)
です。
したがって、太陽の万有引力による位置エネルギー
E位置エネルギーU=−GMm/r
のケースと同様に「角運動量保存の法則」が成立するように思えます。
しかし、惑星の公転運動とは異なり、電子の回転運動では位置エネルギーが影響しないのです。
惑星の場合、外力を受けず異なった半径の軌道に移るには、太陽の万有引力に引かれるか、遠心力により飛び出すかです。
万有引力に引かれ異なった半径の軌道に移ると、前後の軌道における位置エネルギー差分惑星の運動エネルギーが増加し、公転速度が増します。また、遠心力により飛び出し異なった半径の軌道に移ると、前後の軌道における位置エネルギー差分惑星の運動エネルギーが減少し、公転速度が落ちます。
その結果既に述べたように、惑星の公転運動では角運動量が保存されるのです。
一方、電子が軌道を変える場合、それは瞬間移動します。原子核の電磁気力に引かれ加速しながら、徐々に軌道を変えるのではありません。また、遠心力により減速しながら、徐々に軌道を変えるのでもありません。
電子は光を放出或は吸収し、移動後の軌道で電磁気力と遠心力が釣り合う様運動エネルギーを調整し、瞬間に別な軌道に移るのです。
ですから電子は、軌道を移る際位置エネルギー差により加速も減速もしません。光を吸収或は放出して回転速度を変えるのみです。故に電子の回転運動では、角運動量が保存されないのです。