夜空が星で埋め尽くされていない理由

必要条件

ハインリヒ・オルバース

 仮に宇宙が無限でありそこに無限の星がありかつ光は即時に伝わるとしたら、夜空は星で埋め尽くされている筈です。
 宇宙は無限か有限かは、まだ結論が出てはいません。仮に、宇宙が有限であり星の数も有限であれば、幾ら光速度が無限大であっても夜空は星で埋め尽くされることはありません。
 宇宙が無限であり光速度も無限大であれば、無限に遠い星からの光も地球に届くことが出来ます。そうなると、空のありとあらゆる部分に星が見え、星のない部分はどこにもありません。
 しかし、光は1秒間に299,792.5qしか進みません。宇宙に始まりがなく無限の過去から存在していれば、無限に遠い星からの光も地球に届くので、やはり夜空は星で埋め尽くされます。従って、夜空が星で埋め尽くされていないと言うことは、この宇宙には始まりがあり過去のある時点からしか存在していないことになります。

宇宙の始まり

 この宇宙は、138億年前にビッグバンにより生まれたと考えられています。しかし、それは一つのビッグバンにより生まれた我々の住んでいるこの宇宙のことです。ビッグバンは無数にあり、我々の宇宙のような宇宙が無数に存在するかも知れません。また、138億年前に起こったビッグバンでも我々の住む宇宙以外にも多数の宇宙が生じた可能性があるとする、マルチバース理論が主流となって来ています。
 この宇宙は138億年前にビッグバンにより誕生しました。小さな火の玉が未曾有の大爆発を起こし、物質が宇宙に飛び散りました。現在も、その膨張は続いています。光が1年間に進む距離を1光年と言います。相対性理論では、物質の移動速度の限界は光速です。従って、この宇宙の大きさは半径138億光年以下の筈です。しかし、観測される宇宙は半径465億光年の大きさです。従って、相対性理論ではこの宇宙の大きさを説明することが出来ませんでした。
 そこで、インフレーション理論が提唱されました。ビッグバンのごく初期において、物質は光速を遥かに超える速度で飛び散ったとする理論です。物質は、10^−36秒間に10^26倍に急激に飛び散り宇宙は一瞬で膨張しました。ビッグバンの初期にはあらゆる存在の根源である粒子は自由に動き回れたと考えます。エネルギーを加えれば加える程粒子の速度は増し、光速を遥かに超えて移動出来ました。その後、この宇宙は相転移を起こしヒッグス粒子のプールが生じました。物質が移動するとヒッグス粒子がまとわり付き動き難さを物質に与えます。これが質量です。相転移を起こす前には、ヒッグス粒子の元となる粒子も自由に動き回っていたので、物質は抵抗を受けなかったとされています。これを水で説明します。宇宙の初期は水蒸気の状態です。水の分子は自由に動き回れます。水の分子が相転移を起こし水となると、水の分子は自由に動き回ることが出来なくなります。プールが生じます。このプールの中で物質が動くと、水の抵抗により物質は動き難くなります。この為に物質は光速を超える速度で移動することは出来ないのです。
 物質は光速を遥かに超える速度で飛び散り、多くの物質に分かれました。光も重力も電磁気力もあらゆるものは光速を超えて伝わることは出来ません。ですから、飛び散った物質間の距離が遥かに遠くなると、光速で伝わる影響力をもってしても物質間を伝わることが出来なくなります。そうなると、物質間では何の影響も与えないこととなります。影響を与え合う距離内の物質が一つの宇宙を形作ります。この様にして、ビッグバンにより数多くの宇宙が生まれたのではないかとするのがマルチバース理論です。

マルチバース理論

 マルチバース理論でも、宇宙は無限にあるかも知れませんが、他の宇宙からは光や一切の影響力が届かないのです。光が届くのは我々の住んでいる宇宙からのみです。地球に光が届くこの宇宙は有限であるので、夜空は星で埋め尽くされてはいないのです。

星は見えなくなるか

 光の相対速度は光源の移動速度に影響されません。光源が高速度で地球から離れていても、逆に向かってきていても、光の速度はc[m/s]で一定です。また、地球の移動速度にも影響されません。地球に向かって来る光を観測しても、地球と併走する光を観測しても、その速度はc[m/s]で一定です。夜空の星は様々な速度で遠ざかっています。地球も移動しています。しかし、星から届く光は、どれを観測してもc[m/s]で一定です。亜光速で地球から遠ざかる星の光が亀位の速度となるので、歩いてその光を追い越すことが出来たと言う話は聞いたことがありません。
 現在では、宇宙の膨張は光速以下です。現在の宇宙では相対性理論が適用でき、物質は相対的位置関係において光速を超えては動かないからです。ですから、宇宙の膨張がどの様に変化しても、見えている星は将来も見えています。星が速度を上げても、地球が速度を上げても、地球から見た星の移動速度は光速以上にはなりません。移動する地球から見た光の速度は常にc[m/s]です。従って、光の速度の方が地球と星とが離れる速度よりも速いので、今まで見えていた星の光が届かなくなることはありません。
 光速度が光源や観測者の移動速度に影響されると考えるのは誤りです。これを「光速度不変の原理」と言います。

物質は光速を超えられるか

 「局所慣性系」は任意の速度で動くことが出来るので、その移動速度はc[m/s]を超えることもあり得る、つまり物質は光速を超えて自在に加速出来ると主張されるかたが居られます。しかし、加速器の実験でも、粒子は光速を超えて加速することが出来ないことは誰でも知っています。
 また、相対性理論では静止系がありません。従って、一方が静止しているとすると他方は亜光速で移動している、逆に他方が静止しているとすると一方は亜光速で移動しているとしか言えません。この通り、運動とは相対的位置関係の変化であり、物質と物質との相対的位置関係はc[m/s]を超えて変化することはありません。物質AとBが反対方向へc[m/s]で後退出来るなら、Aが静止しているとするとBは2c[m/s]で移動していることになります。そうなると、加速器で粒子は2c[m/s]まで加速出来ることになりますが、実際にはc[m/s]が限界ですから。
 この様に、星がc[m/s]を超えて後退するとの思考様式は、相対性理論とは相容れないものです。

 また、光は重力の影響を受けなければ、常にその相対速度はc[m/s]です。そして、宇宙空間の重力による曲率は限りなく0で平坦に近いのです。従って、星と地球の速度がいかに変化しても、地球から見た星の相対速度が光速を超えることはありません。従って、現在見えている星は将来も消滅しない限り見え続けます。

 遠くの星から光が届かないのは、宇宙の始まりのごく初期において、物質の元となるプラズマが、一瞬光速を越えて遥か彼方まで飛び散ったからです。相転移する前の宇宙では、ものは光速を超えて自由に移動できたと考えます。137億年かけて地球に光が届く距離よりも遠くに飛び散ったので、まだ光が届いていないのです。しかし、時間が経過するに従って、序々に今まで見えなかった遠くの星からの光が届くようになります。これをインフレーション理論と言います。現在の宇宙は、相転移を起こしたので物質は光速未満でしか移動できないと考えられています。