光は十億年で十億光年進むのか

一光年の定義

 光は10億年で必ずしも10億光年の距離を進む訳ではないのです。確かに、光が1年で進む距離を1光年と言いますが、これは重力の影響を考えない時の話です。

重力による光の曲がり

 一般相対性理論によると、光も重力により曲げられます。これを「重力レンズ」と言います。遠くの惑星の発した光は、巨大な質量を持つ星の重力により曲げられ一点に集まります。まるで、レンズで光を屈折させて一点に集めるのと同じ現象が起こります。この現象を利用して、遥か彼方にある惑星を観測することが可能となりました。

 光は質量を持たず、重力の影響を受けません。従って、真空中を最速で最短距離を進みます。しかし、空間が重力により曲げられているので、光が曲がったように見えると説明されます。

 空間の曲率は宇宙全体ではほぼ0であり、宇宙は平坦であることが分かっています。しかし、局所的には星がある周辺で空間はその星の重力により曲げられています。従って、光は一見直線ではなく、複雑に曲がりくねったコースを辿り、また、星から外に向かう方向では光速度は遅くなった様に見えます。しかし、空間の方が歪んでいるだけで、光自身は最短距離を最速c[m/s]通過しているのです。この光の辿るコースを「ヌルライン」と呼び、相対性理論の重要な概念となっています。この為に、光は必ずしも10億年で10億光年進むとは限らず、もっと小さな距離しか進まないのです。

宇宙の膨張は空間の膨張か

ジョルジュ=アンリ・ルメートル

 137億年前に起こったビッグバンにより、現在宇宙は膨張しています。よく「この宇宙の膨張は空間の膨張である」と言う主張を耳にします。この考え方に沿えば、懐中電灯の光自体は光速で進んだのであるが、まるで、風船に書いた地球と懐中電灯の光の過去の到達地点が、風船を膨らませると序々に離れて行く様に、10億年間空間自体が膨張するので10億年後の光は10億光年よりも遠くまで到達していると言うことになります。

一般相対性理論

 しかし、これでは光の速度は光速を超えてしまいます。相対性理論は、あらゆるものの速度の限界は光速と言う前提で構築されています。光速に近づくにつれて、時の経過はゆっくりとなります。光速に達すると時の経過は止ります。ですから光自身には時間は経過していないのです。光速を越えてしまうと、時が未来から過去へ流れるようになり、因果関係が崩壊します。従って、光速を超えるものがあると、相対性理論も崩壊してしまうのです。
 一時、ニュートリノが光速を越えて伝わったとの観測結果が発表されたことがあります。その時、相対性理論が誤っていたのではないかと大騒ぎになりました。しかし、結局、その観測結果は誤りであることが判明し、胸を撫で下ろしました。

 また、一般相対性理論に「空間自体」と言う概念はありません。「空間自体」が膨張するのであれば、どの様な仕組みにより膨張するのか説明出来るでしょうか。また、空間が膨張すると物質もそれに伴って膨張するのでしょうか。それなら、地球は46億年前に比べてかなり大きくなっている筈ですが、その様な話は聞いたことがありません。

天体が移動している

 やはり、宇宙の膨張は、天体が外に向かって移動していると考えるべきではないでしょうか。そうなると、光の速度は、光源の移動速度には影響されず常にc[m/s]です。これを「光速度不変の原理」と言います。ですから、重力の影響を受けなければ、光は10億年で10億光年進みます。

 宇宙=「空間自体」が膨張するので、光の到達距離が伸びるとの思考様式は、相対性理論とは相容れないものです。