ブラックホールの近くで宇宙の終わりが見えるか

重力による時間の遅れ

 一般相対性理論によると、重力は時空を歪ませます。その為に、時が遅れます。重力のある地上は重力のない宇宙空間に比べ、時はゆっくり経過しています。具体的には、地表では宇宙空間に比べて1秒間に100億分の7秒時が遅れます。従って、カーナビに使われるGPS衛星の時計は、地上の時計に比べ100億分の7秒速く時を刻みます。

 逆に、GPS衛星は高速移動している為、時の経過が遅れます。具体的には、GPS衛星では地上に比べて、1秒間に100億分の2.55秒時間の経過が遅れます。その為、GPS衛星の時計は、地上では1秒間に100億分の4.45秒遅く進む様に設定されています。これで、軌道に乗った時、地上の時計とシンクロします。この調整をしないと、カーナビの表示位置は、一日に数十メートルもずれてしまい、使い物にならないそうです。

カール・シュヴァルツシルト  一般相対性理論によると、重力による時間の経過の遅れは、次のシュバルツシルト解より求めることが出来ます。シュバルツシルト解とは、一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式の解です。この方程式から、光さえも抜け出せず時間も止まってしまう状態となるブラックホールからの位置を求めることが出来ます。その距離を、ブラックホールの「事象の地平線」と言います。シュバルツシルト面と呼ばれるこの距離より内側からは光も抜け出せず、一切内部の情報は外に出てはきません。従って、それより内側の情報を我々は知ることが出来ないので、「事象の地平線」と呼んでいるのです。

地表のおける時間お遅れを計算する

 では、地表における時間の遅れを求めてみましょう。
ds2=-c2(1-2GM/c2r)dt2+dr2/(1-2GM/c2r)+r2(dθ2+sinθdφ2)
ここで、ds2=-c22、dr=dθ=dφ=0とすると、
@dτ/dt=√(1-2GM/c2r)
2GM/c2に、地球のシュバルツシルト半径である8.87o、rに地球の赤道半径の6378qを使うと
@(dτ/dt)-1=-6.95×10^-10
となります。つまり、地表では重力により無重力の宇宙空間に比べて、1秒間に100億分の6.95秒時間の経過が遅くなるのです。

事象の地平線における時間

 地球の「事象の地平線」は、シュバルツシルト面である半径8.87oの球面です。地球がブラックホールになったと仮定して、8.87oの距離に近づくと時の経過はどの様になるでしょうか。
@式のrに8.87oを使うと
@(dτ/dt)-1=-1
となります。つまり、その場所では1秒間に1秒の割合で時間の経過が遅れるので、時の経過は完全に止まります。
 この様にブラックホールに近づくと、次第に時間の経過が遅れて行きます。そして、そのブラックホールの「事象の地平線」に来ると、パイロットの時間は止まります。100年後にパイロットを「事象の地平線」から連れ戻すと、そのパイロットには100年前から今に瞬時で移行したと思えます。従って、ブラックホールが永遠に存在し、宇宙の終わりがあり、「事象の地平線」のごく近くに宇宙の終わりまで留まる方法があれば、多少パイロットにも時間が流れているので、一瞬ですが宇宙の終わりを何らかの形で感じることが出来るかもしれませんね。

宇宙の終焉

 ちなみに、宇宙の終わりがあるのかないのか結論は出てはいません。
 これには、次の様な考え方があります。
 定常宇宙論では、宇宙は今のままの状態が続くと考えます。従って、宇宙の終焉はないと考えます。
 サイクリック宇宙論は、ビッグバンにより宇宙が生まれたが、重力により再び一つに収縮しビッグクランチを起こす。そして、再びビッグバンを起こしこれを永遠に繰り返すと考えます。従って、宇宙の終焉は一時的なものと考えます。
 宇宙の熱的死の考え方では、宇宙自体の終焉はないが、宇宙は全てが均一で同温度となり、もはや何も変化が起こらなくなると考えます。「熱力学第二法則」によると、温度は高い方から低い方に向かって伝わります。その逆は起こりません。従って、宇宙は次第に同じ温度になって行きます。宇宙の全ての部分が同温度になると、熱は全く伝わらなくなります。この状態では何も起こりません。宇宙は存在していますが、これは死を意味します。
 ビッグクランチ理論では、宇宙の質量がある値よりも大きい場合、自身の持つ重力により収縮に転じ、最終的には永遠に点に収縮したままの状態となると考えます。

ブラックホールの蒸発

ホーキング博士

以前はブラックホールからは、一切のものが脱出出来ないと考えられていました。従って、ブラックホールは宇宙の終わりまで存在すると考えられていました。しかし、ホーキングは、ホーキング輻射によりブラックホールも熱的放射を行う為、序々にその質量を失い最終的にはブラックホールは消滅することを明らかにしました。ですから、「理論的にはブラックホールの近くに居れば宇宙の終わりを見ることが出来る」との回答は誤りです。宇宙の終わりがどの様なものであっても、まだ、ブラックホールが熱的放射を行っているのに宇宙が終わってしまうことはないからです。ブラックホールの消滅が、宇宙の消滅よりも先に来ることは、論理的必然です。