ブラックホールの形

 先ずブラックホールについて説明させて下さい。
 恒星は、4個の水素原子を1個のヘリウム原子に変える核融合反応を起こし大爆発しています。しかし、水素を使い果たすとヘリウム原子を炭素原子に変える核融合反応に切り替わります。恒星が十分な質量を持っていると、どんどん核融合反応は進み、マグネシウム・鉄と言った重い元素が形成されて行きます。

 太陽程度の質量を持つ恒星では、核融合反応は窒素や酸素の段階で止まります。核融合反応が止まると、自身の重力により自身の中に落下して行きます。しかし、その重力は十分ではないので、収縮して高密度になるとエネルギーを生じて再び膨張します。この膨張収縮を繰り返す脈動変光星となります。

   太陽の8倍よりも質量が大きい恒星では、次々と核融合反応が進んで行き、最終的には鉄から成る中心核が形成されます。鉄の原子は安定している為、これ以上核融合反応は起こりません。そして、自身の重力により自身の中へ落下して行きます。収縮が進むと、陽子と電子とが近距離に詰め込まれた状態となり、結合して中性子となります。そして、中心核は中性子で形成されます。太陽の30倍よりも質量がある星の場合には、中性子の核はどんどん自身の重力により自身の中へ落下して行きます。これを重力崩壊と言います。この星の収縮を止めるものは何も無く、永久に縮み続けます。相対性理論を適用すると、最終的には大きさのない点にまで収縮することになります。この状態を「重力の特異点」と呼びます。これがブラックホールです。
 重力の強さは、作用し合う物質の質量の積に比例し、物質間の距離の2乗に反比例します。ここでは、ニュートン力学を使って簡略化して説明します。
 重力の強さは
 F=GMm/r2
 で表すことが出来ます。G=重力定数=6/672×10-11m3s-2Kg-1、Mとmは引き合う物質の質量、R=物質間の距離です。

 星が点にまで収縮すると、r=0となります。すると、重力F= GMm/0となります。数学上は正しくありませんが、これでは、重力は無限大となってしまいます。
 この様に、重力の特異点とは、「重力場が無限大となる場所」を指します。一つでも無限大の重力が現れると、それは宇宙にある全ての物質を吸い込んでしまいます。重力の特異点から幾ら離れても、重力F=∞/r2=∞となります。しかし、現実にはこの様なことは起こってはいません。これは理論が未完成であるために、現実と乖離したのです。この重力の特異点の矛盾を理論上解消するために様々な考察がなされました。

 一つには、その様な重力の特異点が存在したとしても、この宇宙には何の影響力も及ぼさないと考え方があります。重力は周りの空間を歪めます。そして、光でさえ脱出することが出来ない領域をシュバルツシルト半径と言います。
 この中からは、ブラックホールの強力な重力により、何ものも出てくる事は出来ません。一切の情報が外には出ては来ないので、外からはこのシュバルツシルト半径内を知る事は出来ませ。。従って、これを「事象の地平面」と呼びます。

 この様に、重力の特異点は、このシュバルツシルト半径の中にあり、「事象の地平面」によって隠されるので、一切外の宇宙には影響しないと考えられていました。これで、一般相対性理論は破綻せずに済みます。「事象の地平面」の外側では、特異点が存在するにもかかわらず、これを無視して物理現象や因果律を議論することが出来ます。

 この考え方に対して、相対性理論の方程式を使うと、事象の地平面に囲まれていない「裸の特異点」が現れてしまうことが分かりました。これでは、重力の特異点が、我々の世界に影響することになります。

 現在、量子力学理論が完成すれば、この問題は回避されると期待されています。最も有力視されているのが、「超弦理論」です。宇宙のあらゆる物質やそれを動かすあらゆる力は、1本の弦で現されます。1次元の振動する物体により全てを説明出来るのです。そして、この弦は一定の長さを持つので、物質は重力により点にまで収縮してしまうことはありません。従って、特異点が現れることはなく、訳の分からない「無限大」は出て来ないのです。
質問者さん、この様に、ブラックホールは従来は「大きさのない点」と考えられて来ました。しかし、ブラックホールを点と考えると上記の様に現実と乖離します。その矛盾を解消する為に、ブラックホールも一定の大きさを有すると考える様々な試みがされています。しかし、結論はまだ出てはいないようです。