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ブラックホールによる時計の遅れ

重力の特異点

 星の質量が大きくても、核融合反応で爆発している時は、爆発により広がろうとする力と自身の重力とが釣り合い、星は一定の大きさを保っています。しかし、星が寿命を迎え核融合反応が少なくなると、星は自らの重力により自らの中へ落下して行きます。そして、大きさの無い点になるまでどんどん落下して行きます。
 その時、r=0となります。すると、重力F= GMm/0となります。数学上は正しくありませんが、これでは、重力は無限大となってしまいます。
 この様に、重力の特異点とは、「重力場が無限大となる場所」を指します。一つでも無限大の重力が現れると、物質同士は無限大の万有引力に引かれ、二度と離れることは出来ません。しかし、現実にはこの様なことは起こってはいません。これは理論が未完成であるために、現実と乖離したのです。この重力の特異点の矛盾を理論上解消するために様々な考察がなされました。

 一つには、その様な重力の特異点が存在したとしても、この宇宙には何の影響力も及ぼさないと考え方があります。重力は周りの空間を歪めます。そして、光でさえ脱出することが出来ない領域をシュバルツシルト半径と言います。
 この中からは、ブラックホールの強力な重力により、何ものも出てくる事は出来ません。一切の情報が外には出ては来ないので、外からはこのシュバルツシルト半径内を知る事は出来ません。従って、これを「事象の地平面」と呼びます。

シュバルツシルト半径

 この様に、重力の特異点は、このシュバルツシルト半径の中にあり、「事象の地平面」によって隠されるので、一切外の宇宙には影響しないと考えられていました。これで、一般相対性理論は破綻せずに済みます。「事象の地平面」の外側では、特異点が存在するにもかかわらず、これを無視して物理現象や因果律を議論することが出来ます。

 シュバルツシルト解とは、一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式の解です。この方程式から、光さえも抜け出せず時間も止まってしまう状態となるブラックホールからの位置を求めることが出来ます。その距離を、ブラックホールの「事象の地平線」と言います。シュバルツシルト面と呼ばれるこの距離より内側からは光も抜け出せず、一切内部の情報は外に出てはきません。従って、それより内側の情報を我々は知ることが出来ないので、「事象の地平線」と呼んでいるのです。

 「ブラックホールの深さ」とは、大きさのない特異点であるブラックホールから、光や一切の情報が出て来ることが出来ない「事象の地平線」であるシュバルツシルト面までの距離のことですね。この距離は、ブラックホールの質量により異なります。例えば、地球がブラックホールになると、そのシュバルツシルト半径は8.87oです。

 シュバルツシルト解は次の通りです。
ds2=-c2(1-2GM/c2r)dt2+dr2/(1-2GM/c2r)+r2(dθ2+sinθdφ2)
 ここで、ds2=-c22、dr=dθ=dφ=0とすると、
@dτ/dt=√(1-2GM/c2r)
 2GM/c2に、地球のシュバルツシルト半径である8.87o、rに地球の赤道半径の6378qを使うと
@(dτ/dt)-1=-6.95×10-10
となります。つまり、地表では重力により無重力の宇宙空間に比べて、1秒間に100億分の6.95秒時間の経過が遅くなるのです。

事象の地平線

 地球の「事象の地平線」は、シュバルツシルト面である半径8.87oの球面です。地球がブラックホールになったと仮定して、8.87oの距離に近づくと時の経過はどの様になるでしょうか。
 @式のrに8.87oを使うと
@(dτ/dt)-1=-1
となります。つまり、その場所では1秒間に1秒の割合で時間の経過が遅れるので、時の経過は完全に止まります。

重力による時計の遅れ

 この様に、シュバルツシルト面内部では、その強い重力により時計は止まり光も一切の情報も出て来ることが出来ません。
 しかし、決して時間そのものが変化する訳ではありません。時計を構成する粒子が、ブラックホールの強力な重力により動き難くなり、時計が遅れるのです。

 強い重力が私に掛かると、私の肉体を構成する粒子も動きにくくなります。ですから、私はゆっくりと動き・思考し・年を取る様になります。私が、重力の掛かっていない人を見るとその人は速く動き・思考し・歳を取って見えます。あたかも、その人に流れる時間は速く経過しているようです。しかし、実際には、強い重力により私がゆっくりと動いているだけです。

 私も時計もゆっくりと動くので、私には時計がゆっくりと時を刻む様になったことに気が付きません。逆に、重力の掛かっていない人の持っている時計が速く時を刻む様になったと思います。これを「重力による時間の主観的遅れ」と言います。